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2003年12月

2003年12月10日 (水)

次に来る技術の見極めが難しい理由

先週末から急に寒くなってきましたね。私はここのところ引越しを計画していて、週末は不動産屋さんを廻っていたんですが、なんかタッチの差で先を越されたり、それなりに気に入ったものの最終的に合意できなかったりで、上手い具合に決まりません。「なんでかなぁ~?」と考えてみたところ、そもそもこちらの要件定義に確定的でない部分があり、物件探しにブレが生じていたことに気付きました。オフィスの移転もそうですが、こういったものは日ごろのリサーチと運がモノをいいますので、もう少し気長に探してみようと考えています。  

さて、今回は私が考える「次に来る技術の見極めが難しい理由」について書いてみたいと思います。皆さんは、「次に来る技術の見極め」が出来たらどうしますか。私だったら、競馬の予想と同じく、まずお金を賭けたいと思います。消費者としては、最終的に負ける技術にはなるべく投資したくないですし、その技術で伸びる会社があれば、株などに投資をするかもしれません。ですから、「次に来る技術」が予め分かれば、人生が色々と楽しくなりそうです。

ところが、この「見極め」は極めて難しく、誰もが「絶対に勝てない」と思っていた技術が最終的に勝って標準になったり、逆に「次世代技術はこれに決まり」と思われていた技術があっさり負けたりと、往々にして予測がつきません。私は以前から、なんとか見極めが出来ないものかと考えていたのですが、体系化がかなり難しく、最近ようやく少しずつ分かりかけてきたように思いますので、ちょっと考察してみます。

古い事例ですが、MS-DOSが出た当初、私はCP/Mが勝つと思っていました。なぜならば、当時の私はZ-80ユーザであり、その時流行っていたチップである8080、6809、8086等ではメジャーなOSだったからです。一方、そのころのマイクロソフト社は、今日の姿に比較すればまだまだ小さな会社で、時期的には確かIPOしたばかりの頃だったと思います。当時の私にとって、マイクロソフト社はBASICの会社であり、OSの会社ではありませんでした。それが、気付いてみたら何故かMS-DOSが標準環境になり、DOS/Vも同様に標準となっていました。

同じようなパターンは、ハイテクの歴史の中に沢山存在します。例えば、音楽におけるLPとCDの戦い、ゲーム機におけるマスクROMとCD-ROMの戦い、PC用ディスプレイにおけるブラウン管(CRT)と液晶(LCD)の戦いなどもそうでしょう。

このように、いつも新規参入組が勝つのならば話は簡単なのですが、前述したように性能的に優れた新規技術に対して、最終的に既存技術が打ち勝つ逆のパターンもあります。例えば、PCにおけるRISCプロセッサとCISCプロセッサの戦い、WebブラウザにおけるIE(≒Mosaic)とNetscapeの戦いなどがそうです。

それでは、何故多くの人の予想が外れるのでしょうか? 勝敗の要因として、一部に「営業力の差」という声がありますが、競争開始時点の営業力で優れていて勝てなかった技術もあります。また、一般的には当然営業力も含めて予想を立てるはずなので、営業力の差のみが勝敗を左右するのであれば、逆に多くの人の予想が当たるはずです。にもかかわらず、大方の予想が外れるからには、多くの人の考えに取り入れられていない、技術力や営業力以外の要因が存在すると考えられます。私はこの要因を「技術革新(ブレイクスルー)に対する投資」ではないかと考えました。

例えば、ここに市場で競合している既存技術Aと新規技術Bがあるとします。これらの戦いを時系列に並べると、こうなるでしょう。

時点 出来事 予想
既に市場を確立している標準技術Aがある。
その市場に性能的に優れた新規技術Bが参入する。 予想時点
標準を争って新旧の技術AとBが戦う。 カオス状態
ABどちらかの技術が勝ち、負けた方は市場から退出。 結果判明

このように、当初の予測は競争開始時点での、双方の力を見比べて立てられます。この力の中には、当然のごとく技術力や営業力が入ります。ここで、前述の2パターンの内、既存技術Aが勝つと予想されるものをパターン1として、これを売上と時間の相関図に表すとこうなります。

20060403-curve_a_linear.gif
パターン1の初期勝敗予想(既存技術Aが勝つ予想)

これは、先程のOS、ゲーム機、PC用ディスプレイにあたるもので、当初は既存技術Aの方が有利という見方が大勢でした。例えばPC用ディスプレイにおいて、当初LCDは、1.色が悪い、2.視野角が狭い、3.大画面が作りにくい、4.価格が高い、などと言われていました。ところが現在では、ほぼ完全にLCDが標準になっています。この予想に対するイレギュラー結果を、先程の相関図で表すとこんな感じです。

20060403-curve_b_nonlinear.gif
パターン1のイレギュラー結果

つまり、新規技術Bの予想線を超える急激な立ち上りが、予想の逆転をもたらしたのです。それではこのイレギュラーの要因は何でしょうか? 答えは簡単で、当初は無理だと思われていたLCDの不利な点が、見事に解消されたからです。実際には、ノートPCの需要に喚起されたベンダーが次々にLCDをリリースし、そこから得た収益を技術開発投資に廻すことで、各種の技術革新をもたらした結果、当初LCDの弱点とされていた部分が、見事に克服されてしまいました。  それでは、次に新規技術Bが勝つと予想されるパターン2について考えてみます。

20060403-curve_b_linear.gif
パターン2の初期勝敗予想(新規技術Bが勝つ予想)

これは、先程のプロセッサやWebブラウザにあたるもので、パターン1とは逆に、当初は新規技術Bの方が有利という見方が大勢でした。例えばプロセッサにおいて、当初RISCは、1.固定長の命令コード、2.高速なレジスタ、3.パイプラインの最適化、などにより、CISCよりも遥かに高速な処理を実現できるとされていました。ところが現在では、ほぼ完全にCISCが標準になっています。この予想に対するイレギュラー結果を、先程の相関図で表すとこんな感じです。

20060403-curve_a_nonlinear.gif
パターン2のイレギュラー結果

今度は逆に、既存技術Aの予想線を超える急激な立ち上りが、予想の逆転をもたらしたのです。これもパターン1と同様に、PCの需要急増がCISCベンダーの開発投資を促進させ、各種の技術革新を実現させた結果です。  これらのパターン1と2に共通しているのは、投資による技術革新が、当初予想で前提としていた競争条件を覆したことです。これは言い換えれば、「多くの人は技術の限界が既定のものだと考えているが、投資によって意外と簡単にブレイクスルーが引き起こされる。」ことを指し示しています。

これを数学的に考えると、「線形だと思っていたら、実際は非線形だった。」ということになります。人間はどうしても物事を線形的に予測してしまうのですが、現実の事象は多くが非線形ですから、当然に線形的予測は外れがちです。このように、「次に来る技術の見極め」を非線形問題として捉えると、私の専門であった制御理論的な解法アプローチが有効である可能性が出てきます。例えば、「系に投資という外乱を加わえることで競争力がローカルミニマムを乗り越え、更に最適化が進行する」と考えることが出来ないでしょうか? これは工学的な最適化研究において、非線形問題の一般的解法のひとつです。

このような、企業の経営に対する制御理論的なアプローチというものは、私が知る限りあまりないようです。もしかしたら、意外と面白いテーマかもしれません。実は「技術の見極め」自体は、私がもっと若いころから漠然と出来ていたのですが、最近キャッシュフローの考え方を自分の中に体系的に取り込んだことにより、上記の「投資を要因とする非線形性」というアプローチに辿り着きました。ただ、よくよく考えてみると、これってVC投資においても同様ですよね。もしかしたら、米国VCの一案件あたりの投資金額が大きいことが、米国がブレイクスルーを大量に生み出す重要な要素なのかもしれません。

このように考察のタネは尽きませんし、まだ完全には考え方を説明し切れていないのですが、私としては自分の得意分野の考え方を仕事に応用することで、当社がより一層発展できたら良いと思っています。ちなみに個人的に、薄型テレビにおけるプラズマ(PDP)と液晶(LCD)の戦いでは、上記のパターン1を辿って液晶テレビが勝つと予想しています。結果が楽しみですね。

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