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2010年12月 8日 (水)

農業安全保障とレーシックの相似形

レーシック(Laser-assisted in Situ Keratomileusis)という、目が悪い人だったら一度は聞いたことがある近視矯正術があります。私も高校入学後に視力が低下し始め、現在は0.01という小数点第2位が危ないくらい(笑)の近視になってしまいましたので、やはりレーシックの施術を受けようかと検討したことがあります。

レーシックのメリットは、何と言ってもお手軽且つ低価格な点でしょう。それ以前のPRKなどでは両眼で30万円前後の価格だったと記憶していますが、レーシックの場合は近年対応クリニックが増加して価格競争が引き起こされ、両眼で10万円を切る価格での施術が可能となりました。また、術後1週間程度入浴できないのを除けば、アフターケアは暫くの点眼のみであり非常にお手軽です。これで裸眼視力1.5程度に回復してメガネやコンタクトとお別れできるのであれば、人気が出るのも肯けるというものです。

この経済的なメリットについて、私自身のケースで試算してみました。私は普段2週間使い捨てタイプのコンタクトを利用しており、

で年間費用は23,000円です。

これに対して、8万円~30万円のコースが存在するレーシックの施術費用を仮に20万円とすると、

  • 200,000 ÷ 23,000 = 8.7

PER8.7となり、10年以内に経済的な元が取れる計算です。

さらに私の平均余命は40年程度なので、余生をこのままコンタクトで過ごす場合の追加投資額は、23,000円×40年=92万円となります。従って、単純な経済合理性で判断すると当然「投資GO」となるはずですが、実際の私はこれと反対の結論を出しました。理由はレーシックの「リスクとリウォード(Risk and Reward)」に満足できないからです。

レーシックは目の表面の角膜にエキシマレーザーを照射し、角膜の曲率を変えることにより視力を矯正するもので、一度手術したら2度と元には戻らない永続的な変化を起こすことが特徴です。また、レーシックには以下のような合併症のリスクも存在します。

    • 術前より矯正視力が低下し、眼鏡やコンタクトレンズ、再手術によっても矯正できないことがある
    • 過剰矯正および矯正不足
    • 視力の変動
    • ゴースト像
    • フラップのしわ
    • フラップの下の塵や腫瘍
    • フラップの穴
    • 照射のずれによる乱視
    • 角膜拡張
    • 飛蚊症
    • 上皮侵食
    • 後部硝子体剥離
    • 黄斑円孔
      レーシック - Wikipedia

それに加えて、術式そのものには問題がない場合でも、クリニックの衛生面に問題があって広範囲な感染症例を出した事件もありました。

 東京都中央区の「銀座眼科」(閉院)で、レーザー光線で近視を矯正する「レーシック手術」を受けた患者が相次いで感染性角膜炎などを発症した事件で、警視庁捜査一課と築地署は7日、ずさんな衛生管理が感染を招いたとして、業務上過失傷害の疑いで、元院長溝口朝雄容疑者(49)=茨城県日立市=を逮捕した。同課によると、レーシック手術をめぐる医療関係者の逮捕は全国で初めて。
レーシック元院長逮捕 銀座眼科衛生管理怠り感染症

この事件は昨晩のニュースでも取り上げられていました。被害者の中には失明こそ免れたものの、術後極端に視力が低下した事例もあり、前述の不可逆性と合わせてレーシックには大きなリスクが存在すると思います。

リスク(危険性)とリウォード(報酬)は投資戦略を考える上で非常に重要で、低リスク高リウォードの投資であれば是非とも実行すべきですが、反対に高リスク低リウォードの投資はなるべく避けるべきです。

今回のレーシックの場合は、

  • リスク:確率は低いが、失明を含む恒常的な障害が残る可能性がある
  • リウォード:コンタクトが不要になり、100万円程度の期待収益がある

となります。

ちょっと乱暴な言い方ですが、「両目を賭けるギャンブルがある。成功報酬として100万円貰えるが、運悪く失敗すると両目を失う。賭けますか?」ということでしょう。私は(若干の不満はあるものの)コンタクトに概ね満足しているので、100万円の報酬では両目を賭けられないという結論を出しました。皆さんはどう考えますか。

ところで昨今、TPP関連で農業の安全保障について盛んに議論されています。農業は一度耕作放棄をしてしまうと復活させるのに非常に大きなコストが掛かりますし、農地の保全コストについても同様です。それらのコストは農業による収益では賄えない程大きなもののため、実は米国でも耕作放棄地がドンドン増加しているそうです。

TPPは構造的に前述のレーシックと同じ「リスクとリウォード」の問題を抱えています。つまり、国家の食を賭けてまで、農産物の低価格化という報酬を求めるかということです。

私はこの問題についても、「リスクとリウォード」がバランスしていないと思います。少なくともレアアース問題と同様の売り惜しみに対抗できる同盟国との絆(特別購入枠の設定等)や、我が国による強制的措置を裏付ける軍事力・政治力を持てるようになるべく、長期的視野に立って進めていくべきではないでしょうか。世の中は、聞こえの良い言葉の方がずっと恐ろしいものですよ。

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