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2011年5月16日 (月)

福島原発事故の本質

政府と東京電力が隠蔽していた福島第一原発の事故について、遅ればせながら詳細な情報が出始めましたので、現実的な解説も増えてきたようです。非常に示唆に富んだ良い記事を発見しましたので、以下にご紹介します。

 以上、論証してきたように「『最後の砦』としての隔離時復水器(IC)ないし原子炉隔離時冷却系(RCIC)が停止すれば、それから事態は『制御不能』の事態に陥る。よって停止と同時に、間髪を置かずに海水を注入する以外に暴走を止めることができない」ということが、前もって100%予見可能だった。

 現場の技術者はプロフェッショナルなので、全員が以上のように予見したに違いない。しかし、海水を注入することは、取りも直さず原子炉を廃炉にすることを意味する。従ってその意思決定は勝俣恒久会長や清水正孝社長をはじめとする経営陣にしかできない。

 4月13日に清水社長は「福島第1原発事故発生後のベント(排気)と海水注入の実施について自分が判断した」と明らかにしたという。しかし1号機の場合、「制御不能」の事態に陥って20時間後に海水注入は行なわれているから、東電の経営陣は、むしろ1号機について20時間もの間、海水注入を拒んだということができる。すなわち東電の経営陣は、技術が「制御不能」になるとはどういうことなのかを、20時間かけてようやく理解したということだろう。

 それは「現代技術は、常に科学パラダイムに基づいていて、その科学パラダイムが提示する『物理限界』を超えることはできない」という命題への本質的な理解の欠如だった。科学パラダイムに依拠する技術は、不可避的に「物理限界」を有しており、その「物理限界」が、その技術の「制御可能」の状態と「制御不能」の状態との境界を特徴づける。そしてその境界を超えると、列車は転覆し(注)、原子炉は熱暴走するのだ。

 だから、この事故が「初動のミス」つまり「ベントが遅すぎたり注水が少なすぎたりしたから起きた」と単純に理解してしまっては、本質を見誤る。そうではなくて、物理限界を特徴づける境界の位置と特徴、そして構造を、東電の経営陣は理解できなかったから、この事故は起きたのだ。
見逃されている原発事故の本質
東電は「制御可能」と「制御不能」の違いをなぜ理解できなかったのか

著者の山口氏は同志社大学大学院総合政策科学研究科教授で、元NTT基礎研究所の理学博士(専門は物理学)とのこと。本文を読むと何が問題だったのか、技術者の視点から非常に的確に指摘されています。やはりエンジニアたるもの、このような論文を公表すべきですね。

ちなみに、文中の隔離時復水器(IC)とか原子炉隔離時冷却系(RCIC)というのは、原子炉停止後の余熱でタービンを廻して冷却水を循環するモジュールです。これは電力ではなく、原子炉本体が持つ熱エネルギーを冷却に利用するものですので、停電時でも熱平衡を達成するまでの間は冷却能力を持ちます。

このFS(Fail Safe)モジュールは1号機では8時間、1号機より新しい3号機では32時間もの間、原子炉を冷却し続け制御可能にしていました。この間にバックアップ電源を接続して電源回復をしていれば、今回の事態は起こらなかった可能性が高いのです。

本文では、東京電力の経営陣が判断ミスをしたと結論づけていますが、私はそれ程単純ではないと思います。福島原発で非常用発電機が停止した3時間後の19:00頃には原子力災害対策本部が設置されていましたので、原子力災害対策特別措置法第20条第2項及び第3項に基づき、本部長である菅総理は担当大臣や原子力事業者(=東京電力)に必要な指示・命令(例えば、ベントや海水注入)を出すことが可能でした。

それにも関わらず、実際にベント命令を発令したのは翌日の6:50です。一民間企業が広範囲に放射線を撒き散らすベントを決断出来るわけもなく、実質的にはこの命令遅れが致命傷だったことがはっきりしたと思います。責任論はともかくとして、事実はキチンと把握しておくべきでしょうね。

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